まだ私が高校3年生だった16年前の10月。
どこから入ったのか我が家の床下から聞こえた一匹の猫の鳴き声。
父が壁面を外し救出した猫は、とても小さくまるっこかった。
我が家で育てる事になったその雄猫の名前は円吉(まるきち)と命名され、
それまで猫を飼っていなかった私たちにとってはとても愛くるしく、
学校が終わって家に帰る事がとても楽しみで仕方なくなっていた。
それから半年後・・・
社会人1年生になったばかりの4月。
産まれて間もない雌猫が我が家にやってきた。
まぁちゃん(円吉)一匹じゃ可愛そうだから・・と母が知り合いから引き取ったのだ。
会社帰りに、駅の公衆電話から自宅に連絡を入れた時にそのことを知り、
心が躍るような嬉しさを感じた事と、公衆電話の前に立つ私の姿を今でも鮮明に覚えている。
片方の手のひらに楽々と載ってしまう小ささ。
猫用のおトイレによじ登る事もままならない様なその小さな猫は蘭と名付けられ
我が家に新しい家族が増えたのだった。
まぁちゃんと蘭子ちゃん。
この2匹は全くと言っていい程、性格の違った猫だった。
とにかく前に進むと言うようなパワーがみなぎっていた円吉。
家の中を走り回り、柱を登り、時には好奇心からか脱走も試みていた。
お陰で我が家は壁紙から柱からボロボロになってしまった。
蘭がまだ我が家に来る以前の事、家族旅行のため医者に預けたのだが、
帰り道に引き取りに立ち寄ると、車のエンジン音で気付いたようで
病院のドアを開ける前から円吉の鳴き声が聞こえてきた。
「こちらでお預かりしている間ご飯を食べようとしなかったので、お家に帰ったら思う存分
食べようとするかもしれませんが、少しずつ与えるようにして下さいね。」と先生に言われた。
思い起こせば、あの時の円(まる)の家族を捜すような鳴き声と、食事を食べなかった事が
とても可愛そうで、年に一度の家族旅行をいつの間にか止めてしまっていた。 |